先に結論を書く。税関長公示レートは、輸入申告の日が属する週の「前々週」の銀行間相場を、1週間分平均した値だ。日曜から土曜までの1週間ごとに切り替わり、2026年10月25日から31日に使う米ドルは158.26円になっている。財務省が10月21日に出した令和8年度上半期(4〜9月)の貿易統計では、この公示レートの平均が159.54円で、前年同期の146.1円より9.2%の円安だった。輸出も輸入も金額は過去最高を更新したが、その中身を数量と為替に分けると、見出しの数字とは違う景色が出てくる。
結論:貿易統計の「過去最高」は、半分以上が値段と為替の話だった
上半期の数字を、財務省の速報からそのまま並べた。金額と数量指数の両方が載っているのがこの資料の良いところだ。
| 項目 | 金額 | 前年同期比 | 数量指数(前年同期比) |
|---|---|---|---|
| 輸出 | 63兆4,570億円 | +18.4% | 103.8(+2.3%) |
| 輸入 | 66兆2,754億円 | +20.4% | 99.3(▲1.1%) |
| 差引 | ▲2兆8,184億円 | 赤字が+98.8% | ― |
| 公示レート平均 | 159.54円/ドル(前年同期146.1円・9.2%の円安) | ||
輸出も輸入も、昭和54年(1979年)以降の95期の中で1位の金額だ。差引は11期連続の赤字になる。ただし輸出の数量は2.3%しか増えておらず、輸入の数量はむしろ1.1%減っている。運んだモノの量はほとんど変わらないのに、円で数えた金額だけが2割近く膨らんだ。これが上半期の数字の中身だ。
税関長公示レートはどう決まるのか?
根拠は関税定率法4条の7と、関税定率法施行規則の第1条にある。税関のページの説明を短くすると、次の3点になる。
- 対象は、輸入申告の日が属する週の前々週の相場
- 米ドルなら、国内の銀行間で取引される直物(翌々営業日渡し)の中心相場を使う
- その週の平均値を、各税関の税関長が公示する(週は日曜から土曜まで)

「前々週」というところが要になる。10月25日から31日に適用される158.26円は、10月11日から17日の週の相場を平均したものだ。今週の朝に画面で見ているドル円とは、2週間分のずれがある。輸入の課税価格を円に直すときは、この公示レートを使う決まりなので、たとえば10月27日に1万ドルの品物を輸入申告すれば、課税価格の計算は158万2,600円から始まる。
10月の4週間で、公示レートはいくら動いたか
税関が毎週出しているPDFを、10月分だけ並べてみた。数字は米ドルとユーロの1単位あたりの円だ。
| 適用期間 | 米ドル | ユーロ |
|---|---|---|
| 10月4日〜10日 | 158.35円 | 180.22円 |
| 10月11日〜17日 | 157.75円 | 178.79円 |
| 10月18日〜24日 | 158.03円 | 177.47円 |
| 10月25日〜31日 | 158.26円 | 177.01円 |
米ドルは4週間で157.75円から158.35円の間、幅にして60銭しか動いていない。1週間の平均を取っているので、1日の中で1円動いた日があっても、公示レートには薄められて出てくる。ユーロは同じ4週間で3円21銭下がっていて、こちらのほうが動きは大きかった。週の平均は、日々の値動きをならした「遅れて届く物差し」だと覚えておくとよい。
金額の伸びを、数量と値段と為替に分けて読む
ここからは私が電卓で割り算をした概算だ。正式な価格指数は財務省が別に出しているので、あくまで考え方の例として見てほしい。金額の伸びを数量の伸びで割ると、円で見た1単位あたりの値段がどれだけ上がったかが出る。さらに公示レートの円安分で割ると、ドルで見た値段の変化が残る。
| 計算の段階 | 輸出 | 輸入 |
|---|---|---|
| 金額(前年同期比) | 1.184倍 | 1.204倍 |
| ÷ 数量(1.023倍/0.989倍) | 円建ての値段 約1.157倍 | 円建ての値段 約1.217倍 |
| ÷ 円安分(159.54÷146.1=約1.092倍) | ドル建ての値段 約1.06倍 | ドル建ての値段 約1.11倍 |

輸出の18.4%の伸びのうち、数量が2.3%、円安が9.2%ほどを占め、残りの6%前後がドル建ての値上がりという計算になる。輸入はドル建ての値段が11%ほど上がり、そこへ円安が重なった。輸入のほうが値段の上がり方が大きかったので、数量が減っても赤字は前年同期の1兆4,178億円からほぼ倍に広がった。
輸入の伸びは何が引っぱったのか?
速報の本文には、輸入の増加品目として半導体等電子部品と原粗油が挙がっている。地域別では、米国からの輸入が9兆2,105億円で43.9%増えた。米国向けの輸出は11兆3,329億円で17.2%増だったため、対米の黒字は2兆1,224億円と35.1%縮んでいる。

中国からの輸入は15兆4,955億円で20.2%増、対中の赤字は4兆6,007億円まで広がった。原油もLNGも、ほとんどがドル建てで値段が決まる。ドル建ての値上がりと円安が同じ方向に重なると、輸入額は二重に膨らむ。FXで円相場を見ている人にとっては、貿易赤字が広がった理由を「円を売ってドルを買う取引が増えた」と単純に結びつける前に、数量が減っていた事実を一度確かめておきたい。
窓口で「今日のレートで計算してください」と言われた話
私は以前、地方銀行の窓口で為替の相談を受けていた。輸入をしている小さな会社の経理担当の方から、「税関の計算も今日のレートでいいですよね」と聞かれたことがある。窓口で使うのは各行が朝に決める仲値と、そこから手数料を足し引きした売り買いのレートだ。税関の公示レートとは別の数字で、決まり方も使い道も違う。
その方は、銀行の送金レートと税関の課税価格がずれる理由が分からず、帳簿の端数に毎月悩んでいた。前々週の平均を使う仕組みを一緒に確かめたら、「ずれるのが正しいんですね」と納得していた。同じ「ドル円」でも、誰がいつの値を使うかで数字は変わる。
FXで円相場を見る人は、貿易統計のどこを見ればよいか
- 金額より先に数量指数を見る:輸出103.8、輸入99.3のように、モノの量が増えたかどうかを先に確かめる
- 公示レートの平均と前年同期を並べる:159.54円と146.1円の差が、金額をどれだけ押し上げたかの目安になる
- 赤字の相手先を見る:対米は黒字の縮小、対中は赤字の拡大で、どちらも輸入側の伸びが効いている
- 月次の発表日を手帳に写す:上半期の速報は10月21日だった。月次の速報も財務省の公表予定で前もって分かる
貿易統計は相場の予想を教えてくれる資料ではない。分かるのは、すでに起きた半年分の取引が、量と値段と為替のどこで膨らんだかだ。為替の話を読むときに、その分解を自分でやってみると、ニュースの見出しを鵜呑みにしなくて済む。指標の時刻の押さえ方は米雇用統計の記事、取引時間の考え方は取引時間の記事に書いた。
航の推し:公示レートの表を、毎週1行だけ写す
私の結論はこうだ。税関の公示レートの米ドル欄を、毎週日曜に1行だけ手帳へ写しておく。4週間分が並ぶと、日々の値動きと週の平均の差が目で分かる。10月の4週間なら、ドルは60銭の幅に収まり、ユーロは3円21銭下がっていた。それだけで、毎日の画面の上下に振り回される時間が少し減る。
FXはレバレッジをかけた取引で、相場が想定と逆に動けば預けた証拠金を上回る損失が出ることがある。貿易統計や公示レートは売買の合図ではないので、取引の大きさはレバレッジの記事、損失の抑え方はリスク管理の記事で先に決めておいてほしい。
数字は2026年10月25日に、財務省の上半期速報(10月21日公表)と税関の公示レートPDFで確認した。速報値は確報で改定されることがある。
よくある質問
輸入申告の課税価格を外貨から円に直すときに使う相場だ。申告日が属する週の前々週の実勢相場を週平均したもので、日曜から土曜の1週間ごとに税関長が公示する。根拠は関税定率法4条の7と同法施行規則第1条にある。
10月25日から31日の適用分は1ドル158.26円だ。前週(10月18日〜24日)は158.03円、10月11日〜17日は157.75円だった。毎週の値は税関のサイトにPDFとCSVで載っている。
公示レートの平均は159.54円で、前年同期の146.1円から9.2%の円安だった。輸出額は18.4%、輸入額は20.4%増えたが、数量指数は輸出+2.3%、輸入▲1.1%にとどまり、伸びの多くは値段と為替によるものだった。
同じではない。銀行の窓口のレートは各行が当日の仲値に手数料を足し引きして決める。公示レートは銀行間の中心相場を前々週分で平均したもので、使う場面も決まり方も違う。
参照した一次情報
- 財務省「令和8年度上半期分貿易統計(速報)の概要」(2026年10月21日)(輸出入額・数量指数・公示レート平均・地域別)
- 税関「外国為替相場(課税価格の換算)」(前々週平均の仕組み・週ごとの公示レート/2026年10月25日確認)
- 税関「財務省貿易統計」(月次速報の公表予定)
※倍率の分解は筆者が公表値から計算した概算で、財務省の価格指数とは一致しない。写真:Openverse(CC0/パブリックドメイン)


